新潟リハビリテーション大学
 
現代の日本人高齢者に広がる新型栄養失調

現代の日本人高齢者に広がる新型栄養失調

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昨日のブログで、ソフトスチーム加工(低温の湿り飽和蒸気で蒸す)技術を用いて、介護食開発の研究をしていることをお伝えしましたが、現在ターゲットとしている食材は、良質なタンパク質の供給源となる肉類です。写真は、試作途中のソフトスチーム加工鶏ムネ肉です。見た目は、普通の蒸し器で蒸した鶏肉と違いがわからないと思いますが…

今日のブログのタイトルには、ちょっとショッキングな「栄養失調」という言葉を用いました。栄養失調というと、はるか昔の話か、遠い外国のことかと思われるかもしれませんが、実は日本人、特に高齢者においては、現在も栄養失調の危険に直面している人たちが大勢いるというのも事実です。3食しっかりと食べているはずなのに、大きく不足している栄養素があり、続けると心身に不調をきたす状態、それが現代の日本人を襲う新型栄養失調です。今日の2~3限大学院講義「摂食嚥下食品栄養学」では、このような話題も取り上げました。

高齢者では、特に、タンパク質やエネルギー不足に陥りやすく、その状態の栄養失調はprotein energy malnutrition; PEMと呼ばれています。厚生労働省補助金研究の調査では、高齢者のPEM出現状況は、施設で40 %、在宅で30 % 以上と報告されています。そして、その原因のひとつとして、加齢とともに肉や卵などの動物性食品の摂取量が減ることが考えられています。従来、高齢者の食卓のイメージは、「魚と野菜/粗食で節制」が一般的であり、粗食こそ長生きに繋がると考えられていました。しかし、近年、肉や卵などを多く摂取している高齢者の方が老化の速度が遅く、病気になりにくいことが明らかになりつつあり、それらの摂取量が不十分だと、血清アルブミンの量が減り、心臓病や脳卒中のリスクも高くなることも分かってきています。

一方、博報堂新しい大人文化研究所が2013年に発表した報告によると、現代の高齢者(60代)は「肉好き」であり、食べることを楽しみ、栄養バランスや健康を考えた質の良い食事を嗜好する傾向が強いが、肉の摂取量自体は、若い頃と比べて3割強の人で減少するとされています。さらに70歳以上の高齢者になると、咬む力の衰え等に起因して食べたくても硬い肉は食べられなくなり、比較的食べやすい糖分の多い物や軟らかくて食べやすい物、また肉ではなく魚が中心の食事になってしまうことが多く、そのことが上述したPEMの高頻度出現に繋がっていると考えられます。

「軟らかくおいしく食べやすく飲み込みやすい肉」の開発は、高齢者の食生活や健康状態を必ずや改善してくれるものと期待して、研究を進めています。

昨夕は、第2回の学長ゼミを開催いたしました。その様子は図書館ブログに掲載されていますので、そちらをご覧ください。

https://nur.ac.jp/libraryblog/