急浮上している9月入学について

新型コロナウイルス感染症拡大防止のために休校措置が長引いている事象に関連して、高校生のツイート・ネット署名活動から端を発した9月入学説が急浮上し、さまざまな立場から多様な意見が出されています。これに対し、政府は、6月上旬ごろを目安に、9月入学(次年度入学より)の論点を整理するとのことです。

このブログでは、次年度から9月入学となる場合の問題点を中心に、私の個人的な意見を記します。コメント等は受け付けておりませんので、あらかじめ、ご了承ください。

政府が論点を整理するという6月上旬は、例年、文科省より次年度の大学入学者選抜実施要項が発表され、大学関係者向けに説明会が開催される時期です。それを受けて、私立大学では、すぐに(国公立大学はもう少しゆっくりのよう)学生募集要項の作成・印刷に入ります。オープンキャンパスも本格化します。本学も、現時点では次年度4月入学を想定して準備していますから、「6月上旬ごろを目安に論点整理」というスケジュールでは、次年度の入試準備(募集要項作成などの作業含む)を、入学時期が決定されるまでストップせざるを得なくなります。

その結果、やっぱり4月入学ということになった場合、準備期間が短くなり、予定通りの入試が実施できるか、そして、学生を確保できるかが懸念されます。一方、9月入学となった場合は、さらに輪をかけて、混乱が増幅されます。これから議論して次年度の入試のあり方を決めるというには、時間が足りません。実際に、文科省は、入試について大きな変更を行う場合は、2年以上前に受験生等に示すようにと、以前から大学に要請しています。少なくとも入試を準備する側・受ける側ともにそれだけの期間が必要と考えられているからです。今は平常時ではないから、ということもあるかもしれませんが、ただでさえ、コロナの対応に追われ疲弊している教育現場に、急な変更による、さらなる負荷がかかってきて回らなくなることは明らかです。

しかも、運悪く(?)、高大接続改革による入試改革が本格化する入試年度とも重なっています。次の入試から、名称や内容を変える必要があるなど、入試のあり方自体について、個々の大学で詳細な見直し(本学も最終段階の検討が残っている)が必要であり、ただでさえ混乱する年度です。新たな大学入学共通テストの導入、記述式問題や英語の民間試験導入等で大きな問題が生じたのは記憶に新しいと思いますが、それらの問題についても本質的な解決はなされていないままです。入試を準備する側・受ける側両方にとって、さらなる混乱は避けなければなりません。

休校が続き学習の機会が保障されなくなっていることの解決のために、9月入学という一側面だけを捉えて、問題をすり替えてはいけません。今やるべきことは、入学時期の議論の前に、どうしたら学習の機会を保障できるかであり、そのなかのひとつの選択肢として入学の時期を変更するという検討があっても良い、というような位置づけで議論すべきと思います。それが、本質の部分を飛び越えて、「9月入学」だけがクローズアップされていることに疑問を感じます。

現在、多くの大学で、慣れない遠隔授業を模索し、何とか授業を行おうとしています。休校だからといって、教員たちは休めるどころか、新しい手法を身に着け、新しい手法で講義を行うために、休みも返上して準備にあたっています。コロナの感染の波が、いったん収まって大学を再開できたとしても、いつ次の波が来て再び休校にせざるを得なくなるかについて、現時点で正しく予測することはできません。どうなってもいいように、遠隔授業の準備・実施は必須です。9月入学にしたとしても、来年のその時期に、再びコロナの感染の波が来ていないという保証はありません。9月入学にすることで、安心しきって、遠隔授業の準備が疎かになってはいけません。感染の影響がどこまで延びるかも分からない現状において、オンラインなどを活用した学びの保障の問題を早く解決すべきと考えます。

そして、入試制度を中心とした高校や大学だけの問題でなく、保育園・幼稚園から、国家試験の時期、会社の入社時期や会計年度まで変える必要があることについて考えなければなりません。つまり、社会全体が対応できるかということです。さらに、次のような多くの問題点を解決する必要があります。

学費の負担増?

・時期がずれることで5カ月分の学費はどうすべきでしょう。・学生は社会人になる時期が半年後ろにずれるので、家庭では子供を扶養する期間が長くなり、負担が増します。

受験生や保護者の不安増?

・新入試制度で大きな不安を抱えたままの受験生からが、最初の9月入学が想定されています。新しいこと、変更づくめで、不安が増幅されます。また、現在、自宅にこもらざるを得ない状況からも不安を覚えたり、家庭内で虐待が増えたりするということも言われています。このような時期に、突然の9月入学の議論の高まりは、さらなる不安を受験生や保護者に与えかねないと考えます(一方で、ネット署名などから見ると、9月入学を歓迎している高校生が多くいるのも事実です)。

移行期におけるさまざまな問題

・4月入学生(在学生)と9月入学生が混在すると、数年間にわたりカリキュラムの進行が煩雑になります。大学全体としての行事設定や大学運営、授業の進行等が難しくなり、同じものを2回繰り返す必要が生じるなど、教職員の業務量がさらに増えることで、疲弊感の増幅や人手不足から、教育の質が低下しかねません。教職員が年度ごとの契約の場合は、年度の途中で契約が切れてしまう場合も考えられます。  ・移行初年度の新入生が一時的にふくれあがる(前年度の4月~3月生まれ+当該年度の4~8月生まれ)ことになるため、教員の増員のほか、より広い教室の確保も必要になってきます。また、それまでいっしょに学んでいた友達と、8月生まれか9月生まれかで学年が変わってしまいます。  ・大学にとっては、入学検定料や授業料収入が5か月間遅れることで、財政状況が悪化する場合があります。

ざーっと考えただけで、以上のような問題がある中、未知のコロナウイルスと戦いながら、通常時とは異なる多数の業務を抱えながら、在宅勤務併用の現状の中で短期間で入学時期の変更に対応していくことは、非常に厳しいと考えます。