令和6年3月8日(金)、早春のやわらかな日差しと心地よい空気に包まれた「本学の国際教育研究棟(F棟)」において、令和5年度卒業証書・学位記授与式を挙行いたしました。医療学部卒業生・大学院リハビリテーション研究科修了生の皆さん、たいへんおめでとうございました。以下に、学長告辞を掲載いたします。
日差しが日々やわらかくなり、草木の新芽が萌え出ずり、命の躍動する春の訪れを感じる季節となりました。本日ここに、関係の皆様のご臨席のもと、令和5年度新潟リハビリテーション大学卒業式・学位記授与式を挙行できますことをうれしく思います。卒業生、修了生の皆様、卒業・修了おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。
卒業生、修了生のご家族の皆様におかれましては、新型コロナウイルス感染症による大学生活や学業への影響、そして、おととしの夏に近隣地域を襲った豪雨災害などを含め、様々に心配されながら、本日のご子息・ご息女の成長された姿に、感慨もひとしおのことと存じます。ご卒業をお慶び申し上げますとともに、これまで、本学に賜りましたご支援とご協力に、改めて深く感謝申し上げます。
さて、今、卒業生、修了生の皆さんの胸中には、在学中の様々な思い出が駆け巡っていることと思います。楽しかったこと、うれしかったこと、苦しかったこと、辛かったこと、いろいろなことが、たくさんあったことでしょう。
皆さんが本学で過ごした、この数年間は、まさしく、新型コロナウイルスがパンデミックを起こし、国際情勢も混迷するなど、全世界レベルの大きな出来事が次から次へと発生した時期でありました。様々な出来事は、日々の生活の在り方を変容させ、そして、大学での学修や実習のスタイルにまで、多くの影響を及ぼしました。
4年前、学部生の皆さんが本学に入学された直後に、当地域にも緊急事態宣言が発令され、大学は休校の措置が取られました。その後、宣言が明けて授業は再開されましたが、多くがリモート形式になり、人と人とが触れ合う実習やサークル活動、大学や地域の行事など、それまで当たり前に行われていたことができなくなってしまいました。
皆さんは、そのような社会の大きな変化に対して、とまどいを感じ、多くの困難が生じたことと思います。我々教職員も、連日、感染症の対応に振り回され、そして予期せぬ出来事と戦いつつ新しい方式を取り入れ、どうしたら皆さんが少しでも有意義な大学生活を送ることが出来るのかを考えながら、試行錯誤を重ねる日々を過ごしてきました。
対面での授業や活動ができるようになっても、毎日の体温測定や手洗い、消毒は必須になり、人と人との距離を保って、マスク越しにしか友人や教職員と接することができなくなりました。コロナ禍前の私たちが全く想像することもできないような、大学生活を過ごすことになったことと思います。
感染症の流行により、「これまで通り、これまで同様」というスタイルが、あらゆる面で通用しなくなりました。今置かれた環境の中で考えられる「より良い方策」を選択して対応していかなければならないことを痛感させられました。そのような環境下で、授業や実習はもとより、行事や地域との交流、課外活動、研究活動などが思うようにできないという困難な状況の中でも、皆さんは、お互いに協力し合って、これを乗り越えてきました。戸惑いや不安に満ちた大学生活の中でも自分なりの目標を見つけ、一歩、一歩、大切に日々を歩む努力をされて今日の日を迎えることができたことと思います。
図らずも、将来皆さんが困難な壁にぶつかるようなことがあっても、乗り越えていく力になる多くのことを学ばれたに違いありません。私はそんな皆さんを誇りに思い、心から敬意を表したいと思います。
新型コロナウイルス感染症は、私たちの生命や生活、価値観や行動をはじめ、社会全体に広範かつ多面的な影響を及ぼしました。まさに予測困難な時代の到来であり、答えのない問題にどう取り組んでいくかという課題を私たちに提起し続けています。そして、この感染症は、昨年5月より感染法上の5類に移行され、新しいフェーズに入りました。
ポストコロナ期における新たな学びの在り方についても検討が進められ、国の教育再生実行会議では、答えのない課題を解決するためには、一人ひとりの多様な幸せの実現はもちろん、社会全体の幸せでもあるウェルビーイング(Well-being)の理念の実現を目指すことが重要であると結論付けています。この幸せとは、経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさや健康も含まれ、このような幸せが実現される社会は、多様性と包摂性のある持続可能な社会でもあるとのことです。
そして、こうした社会を実現していくためには、一人ひとりが自分の身近なことから他者のことや社会の様々な問題に至るまで関心を寄せ、社会を構成する当事者として、自ら主体的に考え、責任ある行動をとることができるようになることが大切だと提唱しています。
このことは災害の経験によっても得ることができたと思います。自然災害が多発しています。おととしの夏には、近隣地域に豪雨災害が発生し、今年の元日には能登半島地震が発生しました。災害からの教訓としても、人と人との繋がりの大切さ、助け合いの重要性が実感できたことと思います。そして、それらの経験も含め、安全・安心な社会の実現への貢献が、大学の大きな使命の一つとしても浮かび上がってきています。
たとえば、被災地域に広く寄せられるさまざまな支援に象徴されるように、多様な力を繋ぎ合わせていくことで、より力強く大きな支えとなっていきます。本学でも防災・減災への取り組みを進めています。1年生を対象に村上市の防災専門員による防災教育を開始しました。豪雨災害や地震の際には、学生たちが、被災地域や避難所等で、自主的な支援活動を献身的に行ってくれ、村上市からも表彰状や感謝のお言葉をいただいております。
皆さんが今いるこの新校舎は、まもなく村上市の指定緊急避難場所に指定されます。これからは、この場所で近隣からの避難者を受け入れることになります。飲料の自販機も災害対応のものに切り替えます。
さて、これから、新たな道に進んでいかれる皆さんには、急激な社会の変革に呑み込まれることなく、広い視野で多角的に状況を分析し、専門的な見地から、課題を解決する能力を培っていってください。
新しい社会、新しい生活様式が進む一方で、私たちは、授業の受講だけでなく、大学という場所において、仲間と語り合い、交流するといった営み自体が皆さんの成長過程にも大きく影響している重要性に改めて気づかされました。いずれにせよ、この時代を経験した皆さんは、新しい価値観や考え方が身についていくでしょう。それは必ず将来に生きていきます。
皆さんがこれから向かっていく社会は、少子高齢化や人口減少が、さらに急激に進んでいき、私たちの生活環境や就業形態も、大きく変化していきます。AIやロボットが多くの仕事を代替するようになるでしょう。しかし、そのような社会こそ、人と人とが真摯に向き合うことが大切になると思います。本学で学んだ皆さんは、人と接する際に、相手の心を読み取って共感し、優しく温かい心を通わすことができるはずです。
本学園では、創設以来「人の心の杖であれ」を理念に掲げ、知識や技術だけではない、細やかな心遣いで患者さまやご家族をはじめ周囲の方々をしっかりと支えていけるような人材を育成してきました。これまで皆さんが培ってきた知識、技術、そして優しさや思いやりをさらに成長させ、どんな場面でも決して諦めないで挑戦を続けていってください。
社会はあらゆる面から、新しく生まれ変わろうとしています。新しい社会では、誰ひとりとして取り残されることのないよう、共生社会の構築が期待されます。皆さんには、その牽引役を果たしていただきたいと思います。すなわち、困難な状況下にあっても、偏見や差別をせず、常に他者に対してあたたかい手を差し伸べられる人になってください。
皆さんには、人と人とが、支え合って生きていくことの大切さを、このような時代だからこそ、なおさら胸に刻んでこれからの人生を歩んでいって欲しいと思います。そして、いつまでも不断に学び続け未来を切り拓いていき、大きく飛躍して多方面で活躍されることを心より祈念し私の告辞といたします。
本日はまことにおめでとうございます。
令和6年3月8日 新潟リハビリテーション大学長 山村 千絵