「リハビリテーション」で思い浮かぶのは・・・
右の写真のように平行棒の横での歩行(歩くリハビリ)を介助している人(PT~理学療法士)でしょうか?
リハビリテーションに関するセラピストは、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3職種があります。
その中のST~言語聴覚士について、お話します。
言語聴覚士といえば、文字から「ことば」「聴く」・・・コミュニケーションのリハビリが思い浮かぶでしょうか。
①コミュニケーションの障害;「声が出ない」「上手に話せない」「耳が聞こえない」・・・でもそれだけではありません。他の人と関わることが苦手、視線を合わせられない、理解できないなど、様々な要因があって、「私とあなた」「私と物」「私と社会」の関係や連携が障害されることが、コミュニケーション障害であり、そのリハビリをお手伝いするのがSTの仕事のひとつです。
②高次脳機能障害;病気やけがで脳が損傷したためにおこる障害を「高次脳機能障害」と言います。脳損傷は手足が動かなくなるだけでなく、人の顔がわからない、絵や文字が書けない、手が勝手に動く、記憶できない、存在しないものが見える、食事のときに左側だけ残すなど、不思議な症状が見られます。更に、性格や人格が変わる、笑いが止まらない、感情が鈍くなる、やる気が出ない、いつもふざけてしまうなどの心の問題のような症状が出ることもあります。これらをリハビリするのもSTの仕事です。
③摂食嚥下障害;ご飯を上手に飲み込めない、むせるなど、高齢者や脳の障害の方に見られる「食べる」ことに関するリハビリもSTの仕事です。
④発達障害;子供の発達の遅れや偏りをリハビリします。ことばの遅れやコミュニケーションの問題も含めて、子どもの発達のお手伝いをします。これもSTの仕事です。
言語聴覚士はこうした患者さんと向き合うのが仕事です。難しい分野です。子供から高齢者まで、幅広く身体の機能や、心理学、脳の機能や言語学など、多くの勉強が必要です。
ここで私の言語聴覚士としての体験を話しましょう。コミュニケーション障害の中に「失語症」というものがあります。これは、「話す、聞く、読む、書くといった能力が障害され、患者さんにとっては、突然外国で生活をするようなもの」です。朝、目が覚めたら外国にいた、周囲の見知らぬ人が白衣を着て、あなたのことを話しているようですが、何を言っているのかわからない・・・自分の言いたいことも伝えられない・・・。どうですか?不安ですよね、これが失語症です。
さて、私は病院勤務を始めて間もない頃、一人のおばあさんが入院してきました。脳梗塞で右半分のマヒ(体が動かない)と失語症がありました。医師が病状を説明すると、ご主人が
「今まで、妻には長い間、身の回りのことをすべてやってもらい迷惑をかけてきました。手足が動かなくても私が妻の手足になります。言葉がわからなくても、話せなくても、私たちは何年夫婦をしてきたと思っているのですか?言葉がなくても言いたいことぐらいわかりますよ、大丈夫です!」
と言いました。私はそれを聞いて嬉しかった・・・。
ご主人は、毎日奥さんのリハビリに参加して、一生懸命でした。
1か月ほどしたある日、疲れた顔のご主人が言語療法中に言いました。
「先生、私は間違っていました。妻の言いたいことが、伝えたいことが分からないのです。言葉がなくても大丈夫だと思っていました。妻に恩返ししようと思っていました。・・・・それができないのです。とても悔しい・・・」
私はご主人の言葉を聞いて気付きました。私が思っている以上に、私の仕事「言語聴覚士」は大切なんだと!
言語聴覚士の行うリハビリは、多くは個室で行います。患者さんの「ことば」や「表情」を見落とすことなく拾い上げるため です。コミュニケーションに障害のある患者さんは、私たちの想像を超えた大きな不安を抱えています。だから こそ、患者さんの「言葉にならない声」を聴くこと、それが信頼関係へとつながり、良いリハビリへとつながります。
また、手足の運動は患者さんの意欲や協力がなくてもできることもありますが、言葉は患者さんの協力なしには リハビリできません。だから、時には、個室を抜け出して散歩に行くこともあります。
空がとても青い日、一緒に花を見て「きれいですね」と話しかけ、患者さんがうなずく・・・・・これも大切なリハビリ です。コミュニケーションです!
いかがですか? 素敵な仕事でしょう?
患者さんの「ことば」を聴いてください。あなたと話すことで救われる患者さんが、あなたを待っています!
言語聴覚学専攻教員 櫻井晶