大澤先生コラム【2月】

 

新型肺炎をめぐって  (Feb.16,2020)大澤 源吾

 

コロナウィルス(COVID-19)による新型肺炎の関連ニュースが新聞やテレビで連日、賑やかである。

ゴーン被告が逃亡脱出先のレバノンで日本を批判したり、

イランが米軍基地を弾道ミサイルで報復攻撃したり、

という世界を股にかけた緊張報道が繰り返されているなかで、

ウィルスにまつわる報道は、沖縄でイノシシが感染源とされている豚コレラが発生し、

1800頭が殺処分されたというニュースくらいであった。

これが1月20日頃までのわが国の姿であった。

 

 

ところがである。

昨年の12月初旬に、中国湖北省武漢市の「海鮮市場」で原因不明の肺疾患者が発生し、

今年の1月22日には人から人に感染して、感染患者が440人、死者9人に

なったと中国政府から発表されたのである。

26日になって中国政府はさらに中国人の海外旅行停止の処置をとったが、

すでに日本を含めて世界13ヶ国・地域に新型肺炎が拡がっていたのである。

同じ26日の中国での感染患者は1346人、死亡41人と発表されたが、

この時すでに北海道大学の専門家が中国の感染者数を5000人以上と

疫学的に推計していたことも報ぜられ、興味深い。

 

 

武漢からの邦人の引き揚げがチャーター機で行われたことやその経過のことはよく知られている。

31日に至ってWHOは緊急事態宣言を出したが、中国への渡航・貿易制限はされなかった。

クルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」が横浜港で検疫をうけたのは2月3日で、

感染者が乗客、乗務員の中に次第に増加していった経過は記憶に新しい。

また、既に中国から本邦に旅行している人々の発病者、その二次感染者が日本の各地に増加し始め、

さらに感染源が不明の例がみられるようになり、

その数の増加に伴って「新型肺炎」拡散防止のための水際作戦から、

多数例の早期診断と治療に重点を移さねばならなくなってきたのが現状である。

 

 

感染病疫学の専門家も加わった連日連夜の討議を視聴していて、

各スペシャリストの意見は落ち着いていてすばらしいと思った。

そして、リハビリ大学の教育についてふと思ったことがある。

さきに触れた、北海道大学の疫学的推計を発表なさった方や、

あるいは武漢でも早くに「新型肺炎」の異常さに気づいて警鐘を鳴らし、

周囲の誤解のなかで自らも肺炎で倒れた医師がおられたというが、

こうした鋭い感覚を持った専門家としての人材を育てると同時に、

専門以外の領域の出来事についても客観的に、

その正しさを真に理解できる柔軟な心の持主を育てることが教育全般に求められているのではあるまいか。

これら両方が揃ってはじめて未曾有の難事が解決に向かうのではあるまいかと。