SDGsへの取り組み|新潟リハビリテーション大学

誰もが生きやすい未来を創るために、こころの支援策を活用する

和田 剛宗
リハビリテーション学科 リハビリテーション心理学専攻 助教

心理職の知識と技術を、医療の現場に活かす

コミュニケーションって、普段誰とでも当たり前のようにしていますよね。それでいて、上手なコミュニケーションについて学んだことがある人は少ないのではないでしょうか。何もトラブルが起きていなければコミュニケーションが上手か下手かなんて問題になりませんが、意見の違いがあったり期待したような行動を相手が取らなかったりすると、お互いの思いが対立して、場合によっては関係性が悪くなることもありえます。

実は、同じようなことが対人援助職である医療の専門家にも言えるのです。病気や怪我の原因やその治療の仕方について一生懸命学んでも、患者さんやご家族、専門家同士でどういったコミュニケーションを取れるとよいのか学ぶ機会が少ないため、一方的な指示になってしまったり聞き役に徹してしまったりして、治療に向けた協力関係が築きにくくなる(時にはこじれる)ことがあります。

そんな状況を少しでも改善できるように、私は動機づけ面接というコミュニケーション方法を主に医療専門職の方々へ教えています。動機づけ面接では、相手がこんな自分になってみたいという想いをしっかり聞き取りながら、少しずつやる気を引き出すことで行動していけるように支援します。つまり、この方法を学ぶと、相手の話をしっかり聞いたり、治療に向けた話し合いをしたりすることが上手にできるようになるのです。2015年に国際的なトレーナー団体へ入ったのをきっかけとして、これまでに医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、言語聴覚士など様々な医療専門職の方へ教えてきました。なかでも長く続いているのが、以前の勤務先にいた2016年から始めた精神科訪問看護ステーションの職員の方々を対象とする学習会です。本学に勤務してからは、Zoomで実施しています。3~5名の小規模な学習会ですが、目が行き届くぶん、職員の皆さんの学習ペースに合わせて開催できています。また、職員の方々のコミュニケーションの仕方が変わったことで、患者さんが治療行動を取るようになったり良好な関係性を認識するようになったりするなど、医療サービスの質向上にもつながっています。こうした取り組みは論文としても発表しており、研究知見を世の中に届けることも出来ています。

心理臨床家に必要な2つの視点、そして心理職の魅力

「見の目」「観の目」という言葉を知っていますか。これは、かの剣豪、宮本武蔵が表現した2つの視点を指しています。「見の目」というのは、自分が周囲を見ているときの、日常的に使っている自己中心的な視点です。そして「観の目」というのは、自分を離れたところから引いて眺めているようなイメージ的な視点です。

サッカーの試合の中継を思い浮かべてもらうと分かり易いかも知れません。サッカー選手は競技場で走り回りながら、自分の現実的な目を使って相手選手やボールの行方を追います。一方で視聴者は、ボール、選手全員、審判、観客などの全てを含む競技場全体を見渡して試合を見ています。これらがそれぞれ、見の目と観の目に対応しています。

心理臨床家として相談相手のこころの課題を援助しているとき、相手の課題と自分の抱える課題のつながりが見えてくることがあります。そうなると、相手を援助するだけでは自分の課題が居残ってしまうので、自分のこころの課題と出来るだけ冷静に向き合い、解決のために悩み、行動して克服していかねばなりません。そのためには、相談相手をしっかり見られる「見の目」だけでなく、自分自身や自分と相手の関係を俯瞰して眺められるような「観の目」を養う必要があります。

臨床心理学の専門家として仕事を続けていくためには、このように2つの視点を用いて相談相手の援助に役立てながら自分自身を探求することが求められるのですが、相手を助けているようで自分も助けられていたり、自分自身を見つめ直しながらこころの修養を続けていたりするようなところに、この仕事の魅力や醍醐味があるのではないかと私は感じています。

和田 剛宗|リハビリテーション学科 リハビリテーション心理学専攻 助教

 

学位の取得年 修士(教育学) 2005年(平成17年)
最終学歴 愛知教育大学大学院 教育学研究科 学校教育臨床専攻
所属学協会等 日本公認心理師協会、日本臨床心理士会、日本心理臨床学会、日本心理学会、日本教育心理学会、日本医学教育学会、日本人間性心理学会、日本臨床動作学会、日本行動分析学会、日本認知・行動療法学会、日本認知療法・認知行動療法学会、寛容と連携の日本動機づけ面接学会、日本コミュニティ心理学会、日本クリニカルパス学会、日本農村医学会、日本総合病院精神医学会、集団精神療法学会、Motivational Interviewing Network of Trainers(MINT)

担当講義PICKUP

臨床心理学概論[学部]

心理学と一口に言っても、そのなかには認知心理学、社会心理学、発達心理学など様々な種類があります。そんな多岐に渡る心理学の1つである臨床心理学は、こころの悩みを抱える方々の相談に役立つ内容を研究する学問です。臨床心理学概論は、心理職の活動やこころの悩みへのアプローチについてお伝えすることで、臨床心理学の概要を知っていただく講義です。身体リハビリテーションを専門とする理学療法士や作業療法士であっても、こころを持つ人間を対象としています。そのため、物理的な形のない、こころという存在やそのアプローチについて学ぶことは、より良いリハビリテーションを実践するために非常に重要です。

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リハビリテーション心理学専攻(RP)

研究者情報

掲載日:2022年09月21日